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著者:柴沼千晴
ブックデザイン:Cat 佐藤翔子
印刷・製本:株式会社イニュニック
196ページ
当店主催の日記即売会イベント、第5回「日記祭」で初売りされた柴沼さんの日記本です。『犬まみれは春の季語』『頬は無花果、たましいは桃』『親密圏のまばたき』に続く2024年1月から11月までの日記がまとめられています。
〈わたしたちが話し出すことには意味があると思う。ほんとうに?〉
2024年1月から11月までの日記と、日記をつけることに関わるいくつかの散文を収録。
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2024年
1月1日(月)
これまでで一番年明け感のない年明けだった。母はすでに寝ていて、父とあけましておめでとう、と言葉を交わして寝た。去年は自分の生活のうれしさが大きかった。でも、何だか良くないことが起きる気がする、という言いようもないおそれを日記に書いたのは昨日のことで、今日で、日記を毎日つけることをはじめて丸2年が経った。
ひとつめの予感が当たってしまったのは夕方のことで、リビングには遊びに来ている兄家族がいて、姪がラグの上でつみきのようなおもちゃを触っているところだった。はじめての緊急地震速報に、口を開けたままテレビのほうをぽかんと眺めている。わたしはテレビと姪のあいだに入って、肩や足を触って、「なんだっけなんだっけ」と気を逸らしながらうさぎのぬいぐるみやパンのおもちゃを手渡していた。頭からいちごの匂いがする。少しだけその話題になって、でも何事もないように解散する。昼のすき焼きとお寿司の残りを食べながら、何度も鳴る会社の安否確認アプリの通知を返し続ける。