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日記をつける、日記を読むコラム 第三回 佐々木里菜さん

日記をつけることや日記を読むことについて、じっくりと考えてみる/日記に想いを馳せるコラム。

第三回目に寄稿してくださったのは、写真家・映像作家として活動する傍ら、日記を主軸とした文筆活動も行なっている佐々木里菜さんです。

それでは、どうぞ。

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『日記はお手軽な記憶のタイムカプセル』

インターネットの海に『日記』というガラス瓶を投げ続けてから、気付くと20年が経っていました。

私の初めての日記体験はインターネット上にあり、自分が所持していたホームページの中に初めて日記サイトを開設したのが小学5年生、11歳の時でした。

現実世界の友人でその日記を知る者はほんの僅かしかおらず、日記サイトを通じてインターネットで知り合ったのは皆同い年くらいの女の子たちで、皆がそれぞれ遠いところに住んでおり、皆がそれぞれの日常を送っていました。
学校に行く子、行かない子。フリースクールに通っている子。好きな漫画のキャラクターの絵を描いてる子。読んだ本のタイトルと内容と感想を書き綴る子。田んぼの真ん中で見た星空がきれいだったということを書く子…。
学校の図書室の本を読むことに飽きてしまった私は、放課後に家に帰ってからみんなの日記を読む時間が何よりも大好きでした。

そこから20年経った今でも、私の主な日記を書く場所は変わらずインターネットの中にあります。

私にとっての日記とは「誰にも見せないという体(てい)をとった、誰でも読める場所に放置されている日記帳」なのだと思います。

誰にも見せない日記は何度かトライしたもののどうしても続けることができず、(個人情報を除いて)自分について赤裸々に書いたものの全てを今までインターネットの海に放り投げて来ました。

2020年の4月5日。東京都に緊急事態宣言が出される2日前。当時勤めていたアルバイト先が休館になったことをきっかけに、私は1日に1枚「写真と日記と短歌の壁新聞」というものを作り始めます。

セブンイレブンのネットプリントというサービスを利用して発行される、1週間の期間限定で誰でも印刷できるA4サイズのただの日記フリーペーパー。私がSNS上で発信する8桁の数字をセブンイレブンのコピー機に打ち込んで60円を入れると「壁新聞」が発行されるというシステムを使い、緊急事態宣言中に50日間、そこから1年弱の間に不定期で50日間。

どこの誰が読んでくれているかもわからないその壁新聞は累計で3000枚以上印刷され、そのPDFを持って日記屋 月日さんに飛び込み営業をした結果快く「取り扱わせてください」と言っていただき、そこから右も左もわからないまま作った壁新聞のダイジェスト版ZINEを置いていただいていた時期がありました。

壁新聞を100号で終えてからなかなか自力で日記を書くことが習慣化できず、「〆切」というものが欲しいと思った私は、日記屋 月日さんが運営する『月日会』に入りました。

月日会には〆切があります。
毎週金曜日の夜に1週間分の日記を提出し、週明け月曜日に月日会の皆さまの日記がまとめられた会報がメールにて発行されます。

会報は「日別」「人別」と分かれており、私は主に「人別」の方を読んでいます。
象徴的な出来事(例えば社会的事件や異常気象など)があった日は、皆同じ事象のことを書いているのにそれを感じた場所や感情が違っていて「それぞれの人生があるんだな」という至極当たり前の事を思ったりします。そして「これが『日記』なんだな」ということを、読むたびにいつも思っています。

写真業とは別に文章を書くことを始めてから「1番影響を受けた本はなんですか?」と聞かれることが増えました。
その度にいろんな本の名前を答えてきましたが、結局のところ文章を書く上でいちばん私に影響を与え自分が読みたい文章というものについて考えるきっかけとなったのは、インターネットで出会ったいろんな人たちの日記でした。

近年はブログよりもSNSが主流になり、日記とは少し違う方法で様々な人の日常を知ることができるようになりました。
しかし私が読みたいものはやはり今もだれかの日記で、会報を通して誰かの日記を定期的に読むことができるのは日々の嬉しいことのひとつです。

今は新しい日記本を作っています。
昨年春より月日会に投稿していた日記をまとめたもので、今年4月の発売に向けて写真業のかたわら毎日せっせと校正作業をしています。

「自分の日記なんて誰が読んでも面白くない」と言う人は多いですし、私も未だに心のどこかでそう思っています。
しかし自分の日記をいちばん楽しめるのは自分だということも、心のどこかで分かっています。

人は眠りに落ちる時にその日に起きた90%のことを忘れてしまうそうです。忘れたことすら忘れてしまう前に、短くても箇条書きでも良いので日記を書いてみると少しだけ楽しいです。
電車の窓から見た光。遅めのお昼に食べたごはん。帰り道に嗅いだ香りの名前。目の前に座った誰かの声。日記は手軽な記憶のタイムカプセルとなり、時限発火装置として未来の自分に届きます。
今日渋谷の喫茶店で〆切ギリギリのこのコラムを書いているという事も、来週の私はきっと覚えていません。
忘れても別に困らないけれど、思い出せると少し嬉しい。脳の中を光が駆け抜けるあの感じは、日記を書く・読むことでしか味わえない感覚だと私はいつも思っています。

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佐々木 里菜(ささき りな)
1991年生まれ。宮城県仙台市出身。第21回「写真」1_wall 審査員奨励賞受賞。
ポートレイトやstill lifeを中心に雑誌web広告メディアで写真家・映像作家として活動する傍ら、日記を主軸とした文筆活動も行なっている。最近の趣味はスプーン曲げ。​​

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