
日記をつける、日記を読むコラム 第二回 針山さん
日記をつけることや日記を読むことについて、じっくりと考えてみる/日記に想いを馳せるコラム。
第二回目に寄稿してくださったのは、日記屋 月日会第一期生の針山さんです。
それでは、どうぞ。
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「日記を書くこと、読むことの魅力」
他人の日記を読むのが好きだ。かつては大きな声で言えないような趣味だと思っていたけど、日記文学があることを知り、インターネットの普及でみんなが自己開示をはじめ、そして日記専門店ができたことで「なんだ普通の趣味だった」と思うことができた今日この頃です。
思春期の頃、学校に馴染めず、自分以外の人は上手くやれているのに、わたしはなんだか世界からずれたままで、振る舞い方がよくわからないと悩む時期があった。そして他人はどうして上手くやれるのか、何を考えどう答えるのが正しいのかよくわからないまま大人になってしまった。そんな時に、銀色夏生の「つれづれノート」に出会い、好きな作家が創作以外の場では普通に暮らしていることを知り、自分以外の人の生活を覗き考えを読むことで、少し世界と距離が近くなれた気がした。それが私の「日記」が好きな原点だと思う。
わたしは配偶者を病気で亡くし、子供二人を育てるシングルマザーで、友人たちとシェアハウスで一緒に暮らしている。ちょっと変わった生活だ。しかし、だいたいの大変なことはもう済んだことで、後は腹を括って日常を繰り返すしかないターンに入っている。仕事と育児に追われ、ご飯を作って洗濯をして疲れて眠る。家の中は大人も子供も女ばかり。いつでも人の気配がして賑やか。そしてすごく楽しい。
そんな日々の記録を残したいと思い、ここ数年、毎年の目標に「日記を書く」を掲げていた。それを2020年に月日会に入ったことでやっと達成できた。1週間分の日記を書き、投稿する。翌月曜日に会報が届き、他の会員の人が投稿した日記を読む。1年間、そんなルーチンで日記を書いて記録を残すことができた。毎日を記録したい、でもひとりで書き留めるには続かない、かつインターネットで誰でも見れる場所では書きたくない、そんないまの自分の気持ちにぴったりな場所だったのが月日会だった。程よくオープンでクローズドな場所。
毎週届く月日会の会報は、色々な人の日記が載っている。年代もバラバラ。住んでいる場所も違う。時事ネタや同じ話題を違う視点で書く人たちもいれば、そんなことは意に介さず自分のペースで暮らしている人もいる。年末年始には書き手が増え、6月頃には掲載メンバーが減っていくのも「日記」ぽくて面白かった。Twitterより即時性はないけれど、同時代性が強い会報が毎週の楽しみとなっている。長い日記に詳細に描かれる出来事や気持ちの動きに感心し、短い日記の日々の切り取りの潔さに憧れる。そして連載小説ではないので、なんなら1か月くらい休んでも読み飛ばしても問題はなく、皆の暮らしは途切れることなく続いている安心感もある。月日会は、書くことと読むことが両立していて面白い場所だなと思っている。
その後1年分の記録を取りまとめて自費出版の本にして、「日記屋 月日」の店頭に並べて販売してもらった。その一連の流れはかなり楽しかった。本屋さんに自分の本を並べるなんて、こんなに心躍ることは滅多にないだろう。日記、読むだけじゃなく書いても楽しいのだ。すごい。出来上がった本を読み返して、バタバタした毎日の隙間に、楽しいことも嬉しいこともあったことを再確認できた。わたしも意外に頑張っているではないですかと自画自賛もできる。あと、多少環境や設定が変わっているからといって、面白い話が残せるわけでは無いということも解った。日々は日々でしかない。
わたしは出産や子育てのことも、それに続く夫の闘病と死別のことも、コンテンツとして強い出来事は、記録を残す胆力がまるでなかった。渦中であることを残せる人は本当にすごい。それでも何も起きない日々を記録に残すのもいいことだなと気がついた。あと数年もすれば、今のメンバーで暮らしていないと思うし、住んでいる家も定期借家なので引き払うことが決まっている。子供たちも大きくなって、今ほど私にかまってくれなくなるだろう。時間が過ぎることに良い悪いはなく、人生に変化はつきものなのだから、そんな日々にピンを刺すように毎日数行の文章を残しておくのは思ったよりもずっと愉快な営みだ。
初老と呼ばれる年代になった今は、自分以外の人間もそんなに上手く人生を送っていないことが解ってしまった。わたしも若い頃よりは世界に馴染み、「母親」や「会社員」の顔をして生きていけるようになっている。でも、私がここまで生き延びたのも世界の解像度が上がったのも、色々な人が書いた「日記」を読んだおかげでもある。なので皆さんも気軽に日記を書いて、なんなら発表するといいと思う。それが誰かの気持ちの助けになり、誰かが日記を書くきっかけになるかもしれない。私もまだまだいろんな人の日々のことをそっと覗いてみたい気持ちを持ち続けている。
針山(はりやま)
1977年生まれ。都内在住会社員で二児の母。シングルマザー。日記屋月日会第一期会員。シェアハウスで子育てをしている日記を自費出版で発行したりしています。テレワークで絶賛引きこもり中。最近の悩みは庭木の勢いが良すぎて家が廃墟っぽくなっていること。
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「日記屋月日会(通称:月日会)」は、日記が好きな人たちが集まり、その魅力を味わい、ひろく伝えていこうという集まりです。
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・書いている日記を、ほかの誰かに読んでほしい人
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