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ロイヤル日記

1,540円

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著者:佐々木里菜 デザイン:佐藤豊 サイズ:B6サイズ(横128mm×縦182mm×背表紙約5mm) ページ数:表紙+本文48P 印刷製本: 株式会社イニュニック 装画・挿絵:ナガタニサキ ※掲載している写真は以前のバージョンのものです。現在販売しているものとは仕様が一部異なりますので、あらかじめご了承ください。 「暑すぎた2024年の夏の終わり、『ロイヤル』なファミリーレストランことロイヤルホストに行った日だけで構成された日記本。たとえ同じお店でも、一緒に行く人、時間、外の天気、自分の気持ち、食べるもの。それだけで全く違う一日になる。『ロイヤル』に行った日は、長すぎる日記を書いてしまう。大人になってうれしいことは、好きなときに好きな人とファミリーレストランに行けること。今まで誰にも見せられなかった長い日記を7篇収録。」 (著者Webより引用) 目次 ・2024.08.22 父と母と深夜の仙台根岸店 ・2024.08.27 ベルリンからの友と実家のような中野店 ・2024.09.05 オフィスレディの昼休憩と新宿店 ・2024.09.07 九月七日と銀座インズ店 ・2024.09.16 ステーキといちごのティラミスと駒沢店 ・2024.09.26 閉店アナウンスと木曜夜の神楽坂店 ・2024.09.27 雨のコスモドリアと九段下店 --------------------- 2024.8.22 (Thu.) 山下達郎のライブ終わりに車で拾ってもらって父と母とロイヤルホスト。私が夜遅くに両親と行ける唯一の場所がここである。21時半過ぎに入店して、それぞれ好きなものを頼む。母はコーヒーゼリーサンデー、父は期間限定のシンガポールメニューのセット、私はパンケー キ。今日の正午に突然チケットが手に入った山下達郎のライブの感想を父に話し、買ってきたグッズを見せる。店内は静かで、母は少し眠 そうにコーヒーを飲んでいる。私が実家を出るまではこんな風に父と母と夕食後に出かけることは全く無かった。あったとしても天体観測くらい。夕食後の夜遅くにファミリーレストランに行くことが昔から憧れで、深夜にファミレスに行く三人組の DVD を中学生の時におこづかいで買って夜中に一人でよく見ていたことをふと思い出した。今日ロイヤルに来る前に下調べをしていたという父は「これが食べたか ったんだ」と言ってシンガポールメニューセットを嬉しそうに食べて いた。私もひと口もらったらとてもおいしかったので今度食べようと 思う。チキンライスに別添えされていたダークソイソースが不思議な 味。おいしい。知らない味を味わうことができるといつも嬉しい。 私はパンケーキを八等分に切り分けて、シロップをかけ、フォークを三つ並べて父と母とつつく。ここのロイヤルホストは朝早くか夜遅 くに来るのが好き。東京の店舗には無い独特の静けさがある。前に車 椅子の祖母とランチに来たこともあり、その時の女性の店員さんの対応が最初から最後までプロフェッショナルで感動して以来ここのロイヤルのファンになった。そういえば今日はその店員さんはいなかった。 数日前に祖母に会った時、いろんなことをたくさん忘れてしまって いる祖母に「また一緒にロイヤルホストに行っておばあちゃんの好き な甘いパフェを食べようね」と話すと、祖母はそのまま少し考え込ん だあとに「また大食いしようね」と笑顔ではっきりと言ってくれた。 昨日のことも覚えていない祖母は私と一緒にロイヤルに行ったことなんて絶対に忘れていると思ったのに、まさか覚えていてくれたんだということにびっくりして泣きそうになった。九十歳を越えた祖母はロイヤルホストのオムライスを食べた後に小さなパフェも完食する。特に甘いものが好きなので、パフェはいつも私よりも早いスピードで食 べ終わる。底の底まで食べる。それにびっくりする瞬間にいつも少し だけ幸福を感じる。 私は明日東京に帰る。寂しいなという気持ちを紛らわせるために今日父と母をロイヤルに誘った。仙台は近いけど、やっぱり少しだけ遠 い。でも私は仙台に住むことはできない。ここで仕事は多分できない。 なぜそう思うのかとよく人に聞かれるが、説明できる優しい言葉をまだ持ってはいない。 「閉店アナウンスを聞いてみたい」という父の期待とは裏腹に、このロイヤルでは期待していた閉店アナウンスは流れず蛍の光が流れていた。お会計をして、母の運転で家に帰る。夜に両親の運転する車の 後部座席に乗ると、小さい頃を思い出す。深夜2時に父のボルボの後 部座席に乗り込み、高速道路を走って東京や長野に旅行に連れて行っ てもらった時のこと。「もう家を出るよ」と起こされてもベッドで眠っているふりをしていると、両親が抱えて車まで運んでくれること。 シートベルトをして窓の外の星を眺めていたこと。深夜はみんなが眠っていて、どこに行っても夜が続いて静かなこと。母の横顔。父の運転。弟の寝息。自分がここまで長生きすると思わなくて、三十歳を越えてからの生き方にずっと悩んでいる。でも、父と母と夜遅くにファミリーレストランにコーヒーを飲みに行けるようになったのは自分が長生きしたおかげなので、長生きしてよかったなと思う。私は明日東京に帰る。帰りたくないなって、いつも思う。実家とその周りは自分にとって安心できる星という感じがする。時間の流れかたも重力も違う。でも、帰る。新幹線に乗って東京に帰る。東京駅に着いたらその瞬間に東京の自分になる。今日父が食べてたシンガポールメニューのラクサ、おいしかったな。私も今度食べようと思った。東京で。

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