original
著者:鹿野桃香
協力:土師さやか
ブックデザイン:和田実日子
印刷・製本:石引パブリック
「能登半島地震が起きた夜から、なるべくリアルタイムでその日に起きていたことを残そうと、iPhoneのメモに記録をしていました。それはだれかに見せる予定はなく、非日常の緊急事態を一日一日乗り越えるために、自分の気持ちを沈ませる、やさしい行為の一つとして、ただ自分のためだけに書いていました。」
(あとがきより)
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一月二日
午前三時四十分くらいに目が覚める。 少し明るくなってきて朝がやってきたことを細目で感じる。夜が明けそうになっているのが怖かった。すべてを見ないといけない気がした。 次に起きたのは、七時。まだ朝なのになぜか暗く、起きる気持ちになれず、もう一度寝た。 それから八時くらいに起きた。アフロさんが「色んな人が動き出している」と運転席でぼそっと言う。 それはみんなが避難生活のために自分の家に戻って必要なものたちを避難所に持ってきているということだった。私たちも早いうちに動き出そうと、まずは歩いて家に行ってみることにした。 避難所から家まで歩いて十分。 蛸島町で干物屋さんをやっている甚五郎のお父さんが声をかけてくれた。この状況を言葉で表現しようとしても難しい。アフロさんが少し話してまたと挨拶をして別れた。 昨日見た通り、川が氾濫して家に行くまでの道路が水でひたひたになっていた。近所でよくしてくれるDJ(近所のおじいちゃん)とその家族に会う。 明るくなってみた家は思ったよりひどくなかった。ちゃんと建っていた。(しかし奥部分が倒壊し、全壊判定により、もう住むことができない。)浸水をした形跡がほぼなく、玄関にある靴だけが濡れていたので、川が氾濫してきていたことは感じた。 家に入ると猫たちに再会できた。はつがリビングの方から廊下にそっと出てきてくれて涙が出た。 生きていてくれてよかった…と弱気な声が出た。 生きていると思ってなかったよ。 また会えると思ってなかったよ。 ここにいてくれてありがとう。 そのあとどっちゃんが出てきて、階段あたりからタンスの方へ寄ってきた。アフロさんがひゅっとやさしく抱き抱えた。くるみ(三毛猫)はひょこっと出てきてくれて、捕まえて、三匹は軽トラの中に入ってもらった。猫トイレも餌もアフロさんがいい感じに軽トラの中にセットをしてくれてとても頼りになった。
(一月二日の日記より抜粋)