original
著者:木下綾
毎日毎日誰かの日記を読んでいると、ぜんぜん違う場所でぜんぜん違うものを見ているはずなのに、時々目配せしあうみたいに(実際は一方的なものなんだけど)感覚が重なるような瞬間があって、だからわたしは人の日記を読むのが好きなのかもしれない。
(まえがきより引用)
これは、2020年春、新型コロナウイルスの感染が日本国内に広がり、これまでの「あたりまえ」が急激に失われていたころ、わたしが心の安定を保つために夜な夜な書いていた日記です。一日にあったこと、食べたもの、子どもや相方の言動、その時の自分の気持ちをできるだけ事細かに記録してあります。(著者より)
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5月9日(土)
(前略)
子どもをパジャマに着替えさせ、寝かしつけをしようとしたところ「きょうりゅうがこわい」と言いだした。
相方との遊びの中で、家にある恐竜の人形(フィギュア)が「夜になると動き出して、悪い子のところにやってくる」と脅されたらしく、歯をがたがた言わせて(子どもなりの「震える」パフォーマンス)「あさおきたら、ままがきょうりゅうにたべられてたらどうしよう…」などと怖がってなかなか寝てくれない。
「余計なことを…」と相方に苛立ちつつ、「あれはパパのうそだよ。恐竜は絶滅してるし、恐竜の人形も動かないよ」と言うと、「ちゃれんじのやつで、きょうりゅうはぜつめつしていなかったのだ!っていってたよぉー」と言う。
…えっ。
子どもが、早くもわたしの知識量を追い越してしまったのか…たしかに近年、わたしは恐竜時代についての情報をアップデートしていないからな……いや待て。彼はなにか誤解しているのではないか。
灯りが消えた寝室で(子どもの隣で)オンライン幼稚園のアーカイブを探し、例の動画部分を探し当てる。謎が解けた。
(後略)