original

著者:阿久津隆
装画:早瀬とび
〈本の読める店〉「fuzkue」店主による、読書の喜びに満ちた日記シリーズ、第6弾。2023年12月に弊店が開催した、第四回 日記祭にて初売りしていただきました。
5月28日(火)
『今週は時間がない感覚が強くてすでに焦っているしすでに元気がなくなっているような気もするが予定を組んだのは自分だった。朝、パドラーズコーヒーに。久しぶりでうれしい、暑い、上空を前後につプロペラをつけた飛行物体が何機も何機も飛んでいった。外の席は久しぶりに座ったら前よりも影が広くてつまり木々の葉が茂っているとい うことで気持ちがよかった。冷たいカフェラテを飲んで今日も暑いみたいだった。
店、着き、ふと目の前の山になっている本のところを片付けて、そうしたら去年買ったミャンマーの音楽のCDのひとつをまだ聞いていなかったそれが出てきてだからそれを掛けた、ピアノがちょんちょこと鳴らされていた、そのあとスピーカーの調子がおかしくなって慌てたがステレオの電源を一度落として再度つけたら直ったのでよかったがなんだったのか。開けた店は今日も昨日と同様になにかコンスタントにお客さんがありそういう中でいくつか仕込みをやったりしていた。驚いたことに満席になった。慌てて予約ページの席を埋めていって満席状態にした。それで後手後手に回り続けながらオ ーダーをこなしていった、こういうとき構えが大事なのか構えのない状態でのそういう 状態は特にテンパりをもたらすようなところがあってテンパったし休日にはそうならないような回り方で後手に回っていた。つまり洗い物がどんどんと溜まっていったということだった。
4時、山口くんがやってきたときは満席がほどけた直後くらいで洗い物がとにかくあるというところでオーダーもまだあるというところで山口くんはひたすら洗い物に徹した、僕は気分がどんどんと落ちていっていたところでこんなメンタルで面接というか面談というかなんて相手に失礼だな、戻さないと、と思ったがそれで戻るようなものならそもそも落ちてはいないだろう、僕が出た時半までにお客さんは二人まで減り、だからそれに連れて洗い物もまた新たに出るから山口くんはとにかく洗い物だった、それで外でぺちゃくちゃとしゃべって、出た。 6時からの面接は事前のメールのやり取りのときにドトールに来てくださいと言っていたし雨だしやはりドトールかなと思ったが雨はもうやみしばらく大丈夫ということなのだろうか、これなら歩ける、と思ってどうしようと思い、もう20分とかしかないのにドトールにならない可能性のあるドトールに入るのもバカらしいと思って屋上に上がって煙草を吸った、待ち合わせ場所を急遽店にしてもらって、それで僕は2階と3階のあいだの階段に座って待った、そのあいだに山下さんから「ひとの読書」の確認と修正のものが戻ってきたのでそれを見た、ほとんどそのままでよしというご判断で男前だと思った。応募の方がやってきて、それで歩くことにして歩き出した。
自転車を僕は今日は押しながらの歩きだった、初台坂下のほうに下って山手通りに出て、すぐに細い道に入った、それから代々木八幡宮の脇の急坂を上がって下って、すると踏切にぶつかる。それを渡る。正面に公園がある。左に折れる。するとリトルナップがある。そこで僕はアイスのアメリカーノを、応募の方はドリップコーヒーを頼み、また歩き続けるつもりだったが自転車を押しながらドリンクを持ちながら傘も持っている という状態はきっとめちゃくちゃ歩きにくいと思ってそれでリトルナップの外の席に座って飲んだ。雨はまだ降らないでいてくれた。
飲み終えたのでまた散歩を再開して、フグレンを横目に歩いていくと神山町の通りが あってそこを通り過ぎていく白い自転車の女性が「あれ?」と思って向こうもこちらに目をやってそれで「あれ?」となってそれで「おやまあ!」ということで遊ちゃんだった。遊ちゃんはSPBSに千葉雅也の本を買いに行くところだったらしく、遊ちゃんは数日前に千葉雅也のトークイベントを見に行っていてその日は朝から「アンスティチュ アンスティチュ」と早口で言っていた、大学生のときにYUKIのライブを見るため に福島から高速バスに乗って東京に向かうときと似たようなうれしさと不安、実際にそれを見たら好きじゃなくなってしまうんじゃないかという不安を持ったりしていたらしかった、実際にそれを見たら、より好きになった、コロンビアの花火の柄のリュックを千葉雅也は背負っていて「最高」と思った、その遊ちゃんとだから一緒に歩きだしてだから3人で話しながら歩いた。面接とはどういうものなのかもはや誰にもわからなかっ たしそれでよかった。僕は適当に歩きながらも丸善ジュンク堂に向かっていてだから遊ちゃんも一緒に丸善ジュンク堂に行くことにしてSPBSは通り過ぎてずっと歩いて行った、途中でいつもなんの場所なんだろうと思っていた店かなにかでスーツの男性、 そういえば男性ばかりだった、それらがたむろしていてその中がピンク色の光があって アップテンポな音楽が大きく流れていてなにかしらのイベントをおこなっているみたいで「クソつまんなそう」と思った。どうしてそう思ったのだろうか。』
(5月28日の日記から抜粋)