著者:図Yカニナ
一月七日(土)
「しかしわたしはマナティーは必ず見たい。せめてマナティーだけでもしっかり見たい。
マナティーだけが飼われているマナティー館に入ると、中ぐらいの大きさのミント色をした水槽の中にアメリカマナティーが二頭いた。マヤとユマと言う名前がつけられている。
メキシコからやってきたらしい。体長三メートル以上もある。食べかけのレタスの屑と一緒になって漂っている。ぶうらりぶうらり、少し上に行ったり、少し下に行ったり。たまに水槽壁のぎりぎりまでやってきて、やあ、という顔をする。くるっと身体を返して向こう側に行く。また来て、体の表面で水槽の内側すれすれを撫でるようにしてわたしたちの目の前を通過する。パンパンに身の詰まった飛行船のような胴体に簡単な形の前ひれと尾びれが付いている。手漕ぎボートの櫂のように片側の前ひれをひらひらさせると巨体がゆっくりと右を向いたり左を向いたりする。子どもたちは一瞥してふーんとなるともう外へ行きたそうにしている。オバケや鬼やサンタクロースが住む子どもの世界からすれば、水族館で飼育されているようなマナティーを見たところでさして驚くことではないのだろう。だけど大人のわたしはそうはいかない。」
(一部抜粋)