

著者:文=藤本和剛
写真=新田君彦
ブックデザイン:仲村健太郎
大阪に生まれ、共に雑誌をつくってきた編集者とフォトグラファー。
今はそれぞれの道を歩くふたりが再会して綴る、
大阪↔東京、文章↔写真の交換日記。
○帯文寄稿:岸政彦(社会学者・作家)
―この街をよく知る男が書く日記は、にぎやかなのに、どこか寂しい。
大阪の街がにぎやかなのにどこか寂しいのと同じだ。
街を歩くように書かれた日記。
『4月8日(金)ーー晴れ
半年かけて作った2冊の本が来週の木曜日に発売になるので、発送の準備や拡材の用意に手を取られている。他にも規模感いろいろの仕事を抱えている中に、レギュラー案件として神戸のクライアントの制作物があり、昼から打ち合わせに行くことになっていた。西へ行く交通機関は3つあるが、今日は何だか阪神電車の気分だ。車窓から無人の尼崎競艇場の水面が見たい。
作業が押して昼食を取れるか微妙な時間になった。阪神電車の改札に近い早飯の店なら、ノータイムでミンガスとなる。創業50余年、リニューアルしたての欧風カレーの老舗は、立ち食いそばと合体したハイブリット店になっていた。店頭で食券を買い、席で革のジャケットを脱いでいたら、「チキンカツカレーの方」。速い。1分かかっていない。新梅田食堂街のマルマン(閉店)は、ちゃんと座る前にライトランチが出てくるが、やはり回転命の老舗は速い。トレンチを受け取ると、20代と思しき3人の女性店員さんが大変な美人揃い。さらに白飯の量がえげつない。あとスプーンが異常にデカい。いろいろマジか、と言いつつ掻き込みながら、次はいいとこ取りに違いないカレーそばにしようと思った。』
(p.15〜16より抜粋)