伊藤佑弥・僕のマリ『2人の2月』
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伊藤佑弥・僕のマリ『2人の2月』

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デジタルリトルプレス 著者:伊藤佑弥・僕のマリ 発行年(紙版):2019 日記年:2019 僕たちの2月。一年で一番といってもいいほど、瞬く間に過ぎていくようなひと月。 日々を綴るうちに、まだどこにも出ていない小説のような空気が、紙面に流れ出てきた。 * 【伊藤佑弥】 二月六日 再会 水曜日はゆかりさんが早番の日なので、僕より早く起きて用意をしていた。僕の準備は着替えて寝癖を直して歯を磨くことくらいしかないので、いつも大変だなと思う。 遮光カーテンが光と空気を遮断してくれているので、外の様子を知るべく起きてすぐYahoo!の天気予報を見る。予報では雨が降るらしい。再び目を閉じたいのを我慢して起き上がる。これだけでもう評価されたい。起きるだけで偉いと思われたい。起きてすぐにトイレへ行き、歯を磨く。クリスマスにゆかりさんからもらった歯が白くなる歯磨き粉を使う。歯が白くなった様子はない。歯磨き粉を使う前の写真を撮っておけばよかった。 ゆかりさんは忙しなく用意を続けているので、それを避けつつ歯をゆっくり磨く。磨きながら部屋を移動し、カーテンを開けると、曇りで雨は降っていなかった。 準備を終え、一緒に家を出る。鍵を閉めて階段を降りる。傘を持っていなかったので、天気の情報を伝えると、傘は職場にあるからいいんだ、と言う。駅までの道で雨が降ったら僕の傘を使うつもりなのだろう。 外には歩いている人が何人もいるのに傘を持つ人がいない。Yahoo!の天気予報を見間違えたのかもしれないと不安になる。もしかしたら明日を今日だと思ったのかもしれないーー。 【僕のマリ】 二月一日 夢をみる 同じ夢を何度も見る。大学四年の時の冬の夢だ。 わたしは出席率が低かったので、卒業できるかどうかわからなかった。卒業が確定するまでの間、生きた心地がしなかったのを覚えている。自業自得ではあるが、どうしても、あの人が多い教室に行くのが憂鬱だったのだ。その頃、対人関係も良くなかったので、毎日しんどい気持ちで浅く呼吸をしていた。日中はなるべく誰とも話さずに逃げるように帰り、夜になれば外国の映画を観ながら缶チューハイやワインを煽って気絶するように眠っていた。その思い出が強烈だったのか、よく魘されて目が覚める。 汗をかきながら起きて、一分くらい経って現実に戻って、ほっとする。わたしはもう二六歳なのだ。もうわたしを縛るものは何もない。ただのひとつもない。その事実を確認して、安心してまた毛布にくるまるーー。 ◎総文字数/ページ数 約34,369字/本文78ページ